ドイツ北部州の最高峰、ブロッケン山。ハルツ山地に位置し、頂上へと延びるSL機関車を利用した登頂が観光客には人気ですが、トレッキング好きのドイツ人には日帰りハイキングコースとして大人気。国立公園に指定・整備されたハルツ山地は、ハイキングコースや環境施設などが充実(ブロッケン山に登る7ルートの概要も紹介)。歴史的な街並みが残る周辺の町との観光を併せたハルツ紀行、今回はブロッケン山へのハイキング概要編。
ハルツ山地
ハルツ山地とは、ドイツ全土の中央北寄りに位置するハルツ(Harz、「森」の意)地方のうち、国立森林公園に指定された低山脈地域を指します。ドイツの国立森林公園では最大規模で、広さ約25,000ヘクタールのうち、森林面積が97%を占めます。最高峰は標高1,141mのブロッケン山。
画像左はドイツの国立公園(国立公園Webサイト)。画像右はハルツ山地の地図(引用:Thomas Römer)。
ブロッケン山
ブロッケン山は、標高の高いドイツ南部のアルプス山脈を除く、ドイツ中央から北部地域の最高峰です。標高は1,141mですが、ドイツ北部の偏西風を受けやすい場所に位置するため、気候としては高山気候(温帯地方では2,000m級の山に相当)に属し、夏が短く、9月から5月の長期間に渡って積雪が観測されます。
ブロッケン現象
ブロッケン山山頂は年間300日以上霧に覆われ、ドイツの年間霧日数最高記録も有しています(1958年330日)。このため、「ブロッケン現象」と呼ばれる、霧に映った自分の影が大きく見えたり、自分の影の周りに虹のような光の輪が見えたりする現象の語源となっています。
魔女伝説
ハルツ地方には有名な魔女伝説「ヴァルプルギスの夜」があります。内容は、4月30日の夜、魔女達がブロッケン山で行われる悪魔の宴に参加するため終結する、というもの。現在では、魔女や悪魔のコスプレをした人々がこの日に集まり、火を焚いて宴が行われています。なお、この日は多くの観光客がハルツ山地へ押し寄せるため、宿をとるのに苦労します。
魔女伝説の話は、ゲーテの戯曲「ファウスト」に登場します。そして、戯曲の足跡・姿を追ったハインリッヒ・ハイネが記した「ハルツ紀行」で更に詳しく登場。山頂には、独特の形をした奇岩が多く見られ、「悪魔の説教壇と魔女の祭壇」と名付けられた奇岩があるほか、ハインリッヒ・ハイネの碑も置かれています。
SL機関車
ブロッケン山には、SL機関車で麓の町から山頂直下まで手軽に訪れることができ、人気の観光地となっています。拠点となる麓町ヴェルニゲローデから山頂までは約2時間。ルートは複数あるほか、便数も多いので、山頂付近ではSL機関車を撮影・見学出来ます。なお、「ヴァルプルギスの夜(4月30日)」には、魔女や悪魔に扮した人達が大勢乗り込んできます。
山頂利用
ブロッケン山周辺にはこれに匹敵する高山が無く、山頂からは広範囲に周囲を見渡せるため、歴史上重要な拠点が設置されました。初期の山頂利用は平和的なもの(1736年保養施設、1890年ドイツ最初の高山植物園、1936年世界初のテレビ塔建設)でしたが、その後は軍事・政治目的の利用が色濃くなります。
まず、第二次世界大戦でアメリカ軍が占領、次にヤルタ会談でソ連に移行、そしてソ連衛星国の東ドイツ領として「壁」で囲われ、ソ連・東ドイツの軍事基地へ。1989年ベルリンの壁崩壊後、市民によるデモのハイキングなどもあって軍事施設の縮小化が進み、最終的には1994年(ソ連の後を継いだ)ロシア軍が完全撤退し、軍事利用の歴史に終止符が打たれます。
その後軍事基地は一掃、山頂の再自然化が行われ、現在は人気観光地となっています。これらの歴史は、山頂にある博物館で、その地学的特徴や動植物などと共に、当時の品々が詳しく展示されています。
7つのハイキングルート
ドイツでは自然の中で楽しむアクティビティが大人気。ブロッケン山には、充実したハイキングコースは勿論、マウンテンバイク用の自転車コースやマラソン、ウルトラマラソンなど様々なコース・ルートが整備されています。SLからでは、見る・感じることが出来ない景色・自然があるので、下りだけハイキングを楽しむという選択肢も面白いと思います。
ブロッケン山には、山の魅力や魔女伝説、ゲーテ、ハイネの描く世界を楽しむハイキングルートが幾つかあります。ここでは、ハルツ観光協会が推奨する7ルートについて、以下の地図で色分けしています(難易度もハルツ観光協会の定義を使用)。
【赤線】ハインリッヒハイネ道(始点イルセンブルク、10.5km、標高差857m、難易度:高)
ブロッケン山へと続く最も美しい景色が楽しめる登り道。イルゼ渓流沿いに、ドイツの詩人ハインリヒハイネの足跡を辿る。
【緑線】最短ルート(始点シールケ、5.4km、標高差505m、難易度:中)
鉄道駅のあるシールケからエッカーロッホ渓谷を通り、ブロッケン山までの風光明媚な登り。5km程度と最も短いコースではあるが、経験と十分な装備が必要。
【黄線】トイフェルトシュティーク (始点エレンド、23.3km、標高差813m、難易度:高)
ブロッケン山へと続く最も長く困難な登山ルート。ブロッケン山登頂後は、バートハルツブルクへ下る。
【青線】ゲーテ道(始点トルフハウス、8.8km、標高差360m、難易度:中)
1777年12月、ゲーテはこのルートを通りブロッケン山に登頂。
【茶線】アルテナウからの登山ルート(始点アルテナウ、16.4km、標高差751m、難易度:中)
アルテナウからゲーテ道に入る区間を含むルート。ゲーテはこの道も踏破。
【水色線】オーダーブリュックからの登山ルート(始点オーダーブリュック、7.7km、標高差353m、難易度:中)
過去の国境地点「Dreieckigen Pfahl (三角杭)」を経由するルート。
【紫線】エーレンフリートホーフ(名誉墓地)からの登山ルート:(始点エーレンフリートホーフ、7.1km、標高差330m、難易度:中)
青線(始点トルフハウス)、又は水色線(始点オーダーブリュック)の出発地代替ルート。
GPSデータはハルツ観光協会Websiteから利用(Harzer Tourismusverband eV)
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