ヨーロッパアルプスの東部に位置するドロミテ山塊。ドロマイトを多く含む苦灰岩が形成する迫力ある奇岩の峰々は、特異な景観と地質学的価値の高さから2009年に世界自然遺産に登録されています。このドロミテ山塊を南北120㎞に渡り縦走するロングトレイル、アルタ・ヴィア1を踏破してきましたので、その概要編です。
ロングトレイル:アルタ・ヴィア1
ドロミテ山塊とは
ドロミテ山塊はオーストリアに近いイタリア北部に位置し、ヨーロッパアルプスの東側部分に属します。この地域一帯には、ドロマイトと呼ばれる苦灰石(くかいせき、マグネシウム質石灰岩)を多く含む地層が拡がります。苦灰石の地層は風雨による浸食の影響を受け易いため、ドロミテ山塊には鋭く尖った岩峰などの奇岩や多様な地形が存在します。
ヨーロッパアルプスの西側部分と比べて標高は低く(最高峰マルモダーラは標高3,343m、西側部分のモンブランは標高4,807m、マッターホルンは標高4,478m)、氷河なども限定的ですが、灰色の台地が織り成す何層にも折り重なった複雑な地層と奇岩群の景観は地殻変動を間近に感じられ、西側部分の景色とは異なるドロミテ山塊固有の特異な景観・魅力を生み出しています。
アルタ・ヴィア1
アルタ・ヴィア1(Alta Via 1)とは、ドロミテ山塊を南北120kmに渡り縦走するロングトレイルです。スタート地点はイタリア北東部のドッビアーコ村近くにあるブライエス湖。そこからヴェネチア方面に向かって南下し、ゴール地点はドロミテ山塊南端の景勝地ベルーノ。このルートはドロミテ山塊を文字通り縦断するので、ドロミテの名峰群を数多く見ることが出来ます。
ドロミテ山塊にはこの他にも多くのトレイルが整備されており、ロングトレイルについても1番から6番まであります(アルタ・ヴィア 1~6)。いずれも南北に横断していくルートですが、今回はその中でも特に人気のある1番にチャレンジします。
なお、イタリアはヴィア・フェラータ(イタリア語で「鉄の道」の意。急峻な岩場にワイヤーロープや梯子が固定されており、ハーネスやカラビナで自身の安全を確保しながら進むルート)の本場であり、こちらも多くのトレイルが整備されています。
おすすめのガイドブック
ロングトレイルを歩く際には、いつもCICERONE社のガイドブックを利用しています。今回はそのシリーズの中から、ドロミテ版(Trekking in the Dolomites)を使用しました。英語版のみですが、アルタ・ヴィア1、2のコース概要から、1日毎の距離や時間、累積標高、難易度、簡易地図、コース概要が記載されています。アルタ・ヴィア3~6についても概要のみ記載有り。2022年にアルタヴィア1に特化したガイドブックに改訂されていました。
Cicerone Trekking in the Dolomites ペーパーバック – 2016/3/21
ドロミテ アルタヴィア トレッキングガイド(英語)
Cicerone Trekking Alta Via 1 ペーパーバック – 2022/7/15
アルタヴィア1に特化したトレッキングガイドが2022年に出版されました(英語)
コース日程
実際に踏破した際のコース日程は全8日間でした(図表1参照)。今回は全て山小屋などの宿泊施設を利用したため、テントや寝袋は持参せず、オートルート(【HR概要編】オート・ルート/モンブランからマッターホルンを歩く~絶景ロングトレイル)時と比べて荷物は少し軽めでした。
なお、スタート前日が酷い悪天候で、初日のコースが通行止めとなるハプニングが発生。既に現地入りしており、また2日目以降の宿泊施設も全て予約していたため、当初の計画を維持すべく、初日分については急遽公共交通機関を利用する羽目に。大幅な迂回に加えて、同日は日曜日で運行本数がそもそも少なく、さらには前日の悪天候でダイヤも乱れていたため、苦労しました。
図表1;コース日程表(実測)
日数 | 行程 | 距離 | 登り | 下り | 時間 |
1日目 | Dobbiaco – Rif. Pederu (迂回) | 14km | 870m | 970m | 6h |
2日目 | Rif. Pederu – Rif. Dibona | 24km | 1,617m | 1,117m | 9h |
3日目 | Rif. Dibona – Rif. Passo Giau | 8.5km | 666m | 472m | 4h |
4日目 | Rif. Passo Giau – Rif. Passo Staulanza | 13.5km | 457m | 914m | 5h |
5日目 | Rif. Passo Staulanza – Rif. Mario Vazzoler | 16km | 946m | 1,002m | 7h |
6日目 | Rif. Mario Vazzoler – Rif. Carestiato | 11km | 642m | 529m | 4h |
7日目 | Rif. Carestiato – Rif. Sommariva al Pramperet | 14km | 694m | 662m | 5h |
8日目 | Rif. Sommariva al Pramperet – La Pissa | 20km | 789m | 2,226m | 7h |
合計 | 121km | 14,533m | 7,852m | 48h |
ロングトレイルのハイライト
序盤 ~地層が織り成す芸術と奇岩チンクトレ
トレイル序盤は、日によってコースの難度が異なるものの、2日目にはAV1の中で最も過酷な上り下りが控えています。なお、本来のトレイル出発地点はブライエス湖(標高1,494m)ですが、上述の通り、初日の行程が急遽変更となったため、今回は初日のゴール地点であるペデル小屋(標高1,548m)が実際の出発地点となりました。
ペデル小屋からラゴ峠(Forcella del Lago、標高2,486m)まではほぼ一貫して登りが続き、次に直下の湖付近まで一気に下った後、再び登り返して本トレイル最高地点ラガツォイ峠(Forcella Lagazuoi、標高2,573m)を越えます。その後は下りが続き、幹線道路(標高1,732m)を超えると再び登りがスタート。巨大な岩山チンクエ・トッリ(Chinque Torri)の脇を抜け、岩峰群の斜面をトラバースしながら進むと3日目のジアウ小屋(Passo Giau、標高2,236m)に到着です。
序盤の見所はまずラゴ峠です。峠へ向かう美しいルートの景色と峠の全容、さらには眼下の湖へ続く急峻な下りと、次々に移り変わる素晴らしい景色が楽しめます。そしてボス峠(Col dei Bos、標高2,331m)へ向かう途中に見られる地層が織り成す芸術的な景色はドロミテならではの絶景です。
中盤 ~灰色の世界が続く特徴的な岩峰群
中盤は、ドロミテ山塊の岩山を縫うようにして進みます。ジアウ小屋からは時折峠越えの登りがあるものの、徐々に高度を下げつつスタウランザ小屋(Passo Staulanza、標高1,766m)へと下ります。ルートはここから登りとなり、ジグザグ道の険しい急坂が続くコルダイ峠(Forc Coldai, 標高2,191m)を超えると、眼下には美しいコルダイ湖(Lago Coldai)が拡がります。
湖からは岩山斜面のトラバース区間や牛のカウベルが鳴り響く放牧地を越えて進みます。バゾラー小屋(Rif. Mario Vazzoler、標高1,714m)を過ぎ、緩やかな登り下りを繰り返しつつ、岩山モイアッツァ(Moiazza Sud、標高2,878m)直下の斜面を進んでいくとカレスティアト小屋(Rifugio Carestiato、標高1,839m)に到着です。
中盤の見所は、ドロマイトが作り出すドロミテ山塊の特徴的な岩山の景色です。モンブランやマッターホルン周辺の景色とは全く異なる、荒々しい灰色の世界を存分に堪能できます。また、この区間にはシャモアの群れやエーデルワイスなども咲いていたので、珍しいアルプスの動植物も楽しめます。
終盤 ~ドロミテ山塊の絶景
終盤も本格的な峠越えが控えています。カレスティアト小屋からはまず道路脇のデュラン小屋(Passo Duran、標高1,601m)まで一度下り、しばらく道路沿いを進んだ後、山道に入ります。ここから登りが始まり、避難小屋(Malga Moschesin、標高1,800m)を経てモシェゼィン峠(Forcella del Moschesin、標高1,940m)を越えると、プランペレット小屋(Rifugio Pramperet、標高1,857m)に到着です。
そして旅は最後のクライマックスへ。一つ目の峠(Portela del Piazedel、標高2,097m)を越えると、最後の難関ジタ南峠(Forcella de Zita Sud、標高2,395m)越えです。その後は長い下りが続き、バレッタ峠(Forcella La Varetta、標高1,701m)を経て、最終地点のバス停(La Pissa、標高448m)でゴール。
終盤の見所は高所から眺めるドロミテ山塊の絶景です。特に避難小屋への登り途中とジタ南峠越えでは、ドロミテ山塊の特徴的な岩山の数々を一望出来ます。最後の最後にこうした絶景が楽しめるのも本トレイルの魅力の一つ。ゴールの晩は麓町の川を望めるイタリアンレストランで日中の絶景を思い出しながら踏破記念の祝杯を楽しみました。
山小屋
今回の計画では、キャンプは行わずに全て山小屋泊としました。AV1は人気のトレイルだけあって、ルート上には多くの山小屋があり、宿泊先に困ることはありませんでした。もちろん、予約は必須です。
山小屋ではベッド、夕・朝食、シャワー等を利用出来ます。個室のある山小屋も一部ありましたが、基本はドミトリーです。日中はカフェを営んでいるので、早く着いた日には、雰囲気の良いテラスでのんびりと過ごせます。
動植物
動物
ヨーロッパアルプスではよく見かけるマーモット。シャモアも時折見かけます。
植物
いろんな花々を鑑賞できるのもヨーロッパアルプスの魅力の一つです。
次回は個別編となります。
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