ヨーロッパアルプスの名峰ユングフラウ、メンヒ、アイガーを擁するスイス・ユングフラウ地方を10日前後で一周する約120kmのロングトレイル、ツール・ド・ユングフラウ(Tour of Jungfrau Region)。トレイル6日目は、クライネ・シャイデックからユネスコ・トレイルを通りブルンネン谷の奥シュテッヘルベルグまでの18.5km(上り779m、下り1,848m)、6時間の下りの多いコースです。
クライネ・シャイデックからアイガー・グレッチャー駅
今朝も快晴!朝日を浴びるアイガー、メンヒ、ユングフラウの姿を正面に眺めながらトレイル開始です。まずは鉄道駅クライネ・シャイデック(標高2,061m)を経て、アイガー・グレッチャー駅(標高2,320m)までひと登りしてTJRメインルートに戻ります。
クライネ・シャイデック駅へ向かう途中、アイガー北壁が望める絶景スポットを発見。案内板には登攀年・ルートが紹介されています。何度見ても険しい。駅に到着すると、赤い列車がホームに来ていました。近くの土産物屋には日本人スタッフがいて、気軽に買い物を楽しめました。
クライネ・シャイデックからは、昨日下ってきたルートとは異なる線路沿いの最短ルートを進みます。ルート右手にはこれから下るブルンネン(Brunnen)谷が拡がります。草地があり、牛の放牧も盛んなようです。しばらく登ると昨日のルートに復帰、今日のTJRはここからがスタートです。
ユネスコ世界遺産トレイル
アイガー・グレッチャー駅からビグレンアルプ
アイガー・グレッチャー駅の裏手から、ユネスコ世界遺産トレイル(Tour UNESCO Welterbe)に入ります。ルートはアイガー、メンヒ、ユングフラウの氷河水が流れる谷底を左手に望みつつ、岩石や岩屑、土砂などが堆積した氷河地形(モレーン、氷堆石)の尾根沿いを進みます。道幅は狭く、高度感もあって迫力満点です。
少し下ると、大きな岩の後ろに標識を発見。その脇には、メンヒ、ユングフラウをバックに、ポーズを構えた牛がスタンバイ!?確かに絶好の撮影ポイントです。その後も細いトレイル上に数匹の牛が立ち並んでいて、通過するのにも一苦労です。
また、このルートからはメンヒ、ユングフラウ間にあるユングフラウヨッホ展望台も見えます。進行方向にはブルンネン谷が拡がり、気持ちの良い下り坂が続いています。もっとも、今日のトレイルは下りが大半なので、トレッキングポールを使い足への負担を抑えつつ進みます。
ビグレンアルプ
氷河地形(モレーン)を過ぎると辺り一面には草地が拡がり、木々も見かけるようになります。標高は2,000m以下となり、森林限界の下まで来たことが分かります。どんどん下っていくと、幾つかの小屋が見えてきました。ビグレンアルプ(Biglenalp、標高1,739m)に到着です。
この辺りには、クロジョウビタキが何匹も飛び回っていました。岩の上でポーズを取ってくれた小鳥も。先へ進んでいくと、ブルンネン谷を挟んで、前方の崖の上には山岳リゾートとして名高いミューレン(Mürren)の町が見えてきました。数日後にはあの町に宿泊予定です。
放牧小屋を幾つか過ぎてさらに下っていくと、ついにブルンネン谷の全容が見えてきました。両端は正に断崖絶壁。これも氷河によって作られた特殊な地形です。眼下に拡がる緑の草原には日光が差し込み、穏やかで美しい風景を作り出しています。
ブルンネン谷への下り
ランチ休憩
シュタルデン(Stalden、標高1,665m)の分岐点を過ぎると、ルートは森の中に入ります。急勾配が続くこの区間には階段や梯子なども整備されており、先程見た断崖絶壁(約800m)を一気に下ります。今日はここまでで既に700m程下ってきたので、慎重に進んでいきます。
山小屋のあるプレチャルプ(Prechalp、標高1,320m)まで来ました。この辺りは少し開けており、先程間近に見えたユングフラウも望めます。ルートは再び林間コースの下りとなります。足への負担も大分溜まってきた中、丁度良い場所を発見したのでここで遅めのランチ休憩とします。
少し荒れてはいるものの、水飲み場やベンチもあります。景色は良く、正面には急峻な絶壁、眼下にはブルンネン谷が拡がります。上機嫌でランチの準備をしていると多数の蚊に襲われました。慌てて持参した蚊よけスプレーを使ってみると、これが抜群の効果を発揮し快適なランチを楽しめました。
トリュンメルバッハ(川)
十分なランチ休憩を取り午後の部再開です。少し下ると、轟音と共にブルーネン谷へと注ぐトリュンメル川(Trümmelbach)に差し掛かります。この川の源流はアイガー・グレッチャー駅付近で見た氷河の水。川の色も、氷河水特有の美しい乳白色です。
橋の上からゆっくりと写真撮影したいところですが、近くの看板には「急流であるうえ、氷河の崩落や天候次第では水量が大幅に増えるので、橋の上では決して立ち止まらないように!」との注意書きがあるので、急いで渡ります。橋の下をのぞくと、もの凄い水量に圧倒されます。
橋を渡ると少し登り返します。この辺りは落下防止用の柵もあるので、急峻ですが安心感のあるルートです。登り終えると見晴らしの良いベンチがあるので小休止。谷底が大分近づいてきました。この後の下りは、やや急な箇所もありますが、設置された補助ロープなども使いつつ慎重に下ります。
ブルンネン谷を通って宿泊地シュテッヘルベルグへ
ブルンネン谷とラウターブルンネン村
そしてついにブルンネン谷に到着です。谷の北側には、ドイツの文学者ゲーテが滞在した風光明媚なラウターブルンネン(Lauterbrunnen)の村が見えます。この谷特有の「崖の上から降り注ぐ滝」も見えます。断崖絶壁から流れ落ちる、凄まじい落差の滝です。
ここで少し歴史を。案内板によると、19世紀の終わり頃、ラウターブルンネンには裕福な英国人を中心に、多くの観光客が訪れました(1887年7月18日から同10月1日:約5.5万人)。当時はインターラーケンから、馬や馬車でラウターブルンネンへ来たようです。
裕福な観光客を対象とした高級ホテルも建ち並び、当時としては珍しい電灯や貯水池などが整備されました。貯水池は、夏場にはプールとして使用され、観光客に大変喜ばれたそうです。それでは、そんな素敵なブルンネン谷へと降り立ちます。
名瀑鑑賞
ブルンネン谷へと下りたところにあるのが、 トリュンメルバッハの滝(出口)です。先程横断したトリュンメル川は長い年月をかけて岩を削り、現在では岩の中を流れる不思議な流路を作り出しました。ここは轟音を立てて岩の中を流れる滝を見学出来るため、人気の観光スポットになっています。
今回は時間がないので観光は後日として先を急ぎます。ブルンネン谷を南に進み、本日の宿泊地シュテッヘルベルグ(Stechelberg)の集落を目指します。ルート案内板によるとここから約1時間の道程。谷底まで下ってきたので暑さが厳しくなりました(標高830m)。
谷の中はヴァイセリュッチーネ(Weisse Lütschine)川に沿って平坦なコースが続きます。宿泊地へ向かう途中、スイスで最も落差のあるミューレンバッハの滝(Mürrenbachfall、落差417m)やエーガルテンバッハの滝(Ägertenbachfall、落差261m)など、崖の上から流れ出る幾筋もの滝を見ながら進みます。
シュテッヘルベルグ
シュテッヘルベルグの集落へ向かう途中、ミューレンの町とシルトホルン山頂を繋ぐロープウェイの駅があります。ミューレンの町には車の乗り入れが出来ないため、観光客はここに駐車しロープウェイでミューレンに向かいます。
ロープウェイ駅を後にして川沿いの遊歩道を進みます。この辺りは標高が低いうえ、谷の中では日陰があまりなく、本トレイルで最も暑い区間となりました。途中、川で体を冷やしながら進みます。そして無事、本日の宿泊先に到着です。
シュテッヘルベルグは小さな集落ですが、宿泊可能な宿は2件あります。食事も提供しているので、夕飯はそこで取り、翌朝の朝食も前日夜に貰いました。スーパーなどの小売店は見当たりませんでしたが、これで明日の準備も万全です。今日は下りと暑さが堪えた一日でした。今回はここまで。
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