スイス国内を東から西へと横断する総距離390kmのロングトレイル、スイス・ヴィアアルピナ1(別名:クロッシングスイス、 Crossing Switzerland)。スイス隣国リヒテンシュタインの首都ファドゥーツを出発し、スイス国内の風光明媚な絶景を満喫しつつ、全20ステージ・14の峠を越えて(累積標高差23,600m)、レマン湖畔の町モントルーを目指します。今回は4日目(エルム~リンタール)編です(概要編はこちら)。
エルム出発
エルム
今日の行程は宿泊地エルム(標高960m)を出発し、リヘットリ峠(Richetlipass、標高2,260m)を越えてリンタール(Linthal、標高662m)へと下ります。愛用のガイドブックによれば、総距離24.5km、コースタイム8時間半~9時間と、これまでで最もタフな一日です(登り計1,490m、下り計1,820m)。
このため今朝は4時起床、5時前に宿を出発。まだ辺りは暗いため、ヘッドライトをつけてトレイル開始。幸い、空には雲も見えず、快晴の気配。日が昇る前の涼しいうちに、急登により高度を一気に上げます。最初の目的地はスキーのゴンドラ駅があるアエンペリ(Ampachli、標高1,480m)。
山道を登っていくと、徐々に空が明るくなり、エルムのシンボルである「セント・マーチンの穴」が見えてきました。昨日学んだ世界遺産サルドナ地殻変動地帯(解説についてはこちら)、新しい地層の上に古い地層が積み上がったアルプス造山活動の痕跡を間近に見ることが出来ます。
アエンペリへの登り
エルムから山道を1時間程登ると民家が見えてきました。ゲルストボーデン(Gerstboden、標高1,300m)です。ここを通り過ぎると、ルートは再び山道に入ります。先へ進んで行くと、スキー場のコースへと出ました。視界も開け、眼下を一望出来ます。
道路脇に目を向けると、鉱石の無人販売所を発見。これまでも様々な種類の無人販売所を見てきましたが、このタイプは初めてです。ブロック毎に値段が書かれており、最も高いのは15スイスフラン。この辺りは珍しい鉱石が採れるようなので、記念品には良さそうですが、これからの長い行程を考えるとここは我慢。
そして、スキー場らしき場所に到着。最初の目的、アエンペリ(Ampachli、標高1,480m)です。
アエンペリ
と、その前に。今度は見慣れた無人販売所を発見。冷蔵庫の中を覗いてみると、ヨーグルトやチーズが入っていました。アエンペリで休憩予定だったので、ここで地元産ヨーグルトを購入。
アエンペリにはスキーのゴンドラ駅があり、大きなレストランも併設していますが、訪れた時は残念ながら休業中。軒先を借りて、ここで一休み。先程購入にしたヨーグルトを早速頂きます。出来立てで、固まっていない濃厚ヨーグルト。ちょうど良い補給が出来ました。案内板によれば、ここから次の目的地オーバーアープス(Obererbs、標高1,690m)までは約1時間45分。
オーバーアープス
天空の楽園
ここからは、冬場にスキーコースとなる道を進みます。比較的平坦な砂利道なのでペースも上がります。しばらくすると、リートマット(Rietmatt、標高1,645m)に到着。
正面に見える山を見ると、頂上部分が不思議な色合いをしています。これもサルドナ地殻変動地帯の一つで、はっきりと断層が見て取れます。周辺の山々も頂上付近だけ同じ色合いで、何とも不思議な景色です。
そして、この辺りの斜面では花々が丁度見頃を迎えていました。これまで見てきた中でも、一番咲き誇っている印象です。花の種類や色も豊富で、正に百花繚乱、圧巻の光景です。「天空の楽園」と勝手に命名し、のんびりと撮影・鑑賞を楽しみました。
迂回路
先へ進むと、突然「この先通行止め、迂回路へ」との看板が登場。今日は距離が長い予定の中、更に遠回りになりますが、仕方ありません。当初ルートよりも高所のルートを進みます。気持ちの良い「天空の楽園」を登っていくと、綺麗な展望台に到着。抜群の見晴らしに加えて、こでではシャモアやアイベックスの「角」が展示されており、直接触ることも出来ます。立派な角ですが、実物は結構重いです。
ここから谷奥に向かって山道を進みます。視界が開け、美しい山並みが望めるとても気持ちの良いルートです。しばらく進むと分岐点に到着、今度は一気に下ります。ルート脇には綺麗な山ユリも咲いています。次の分岐点ビショフ(Bischof、1,600m)まで下ると当初のルートに合流。こちら側でも、分かり易い通行止めの表示があります。
オーバーアープスへ
メインルートに戻り、トレイル再開。綺麗な小川を越えて先へ進みます。最近土砂崩れがあったようで、ルートの一部は改修中の状態。それでも十分通行可能だったので、再度の迂回路は何とか免れました。ルートは林の中へと続きます。ルート脇に目をやると、エーデルワイスの彫刻。その先には、ベンチやBBQコンロがあるピクニックエリア。見晴らしが今一つだったので、ここはスキップ。
林を抜けると、再び見晴らしの良いルートへ。ここで朝食タイム(9時半頃)。この先はまだまだ長く、本格的な登りも控えているので、しっかり食べて荷物を軽くしておきます。50分程休憩をとり、トレイル再開。
オーバーアープス
朝食場所から10分程進むと、オーバーアープスへ到着。ここにはバス停があり、その先には山小屋(標高1,690m)もあります。案内板によれば、ここから今日の最高点・リヘットリ峠まで2時間15分、ゴール地点のリンタールまでは5時間半。山小屋で予備のボトルに水を補給し、急登開始。
リヘットリパス峠
一段目の峠越え
リヘットリ峠までは、ここから600m弱の登り。どっしりと構えた美しい三角形の山容を持つハウスシュトック山(Hausstock、標高3,158m)を左手方向に見ながら、右側斜面のジグザグ道を登っていきます。この辺りもアルプスの多種多様な植物が咲き誇り、「天空の楽園」コースが続きます。
また、至る所で緑の地面の上に、ピンクの絨毯が敷かれているように見えます。そう、このピンクはアルペンローズ。撮影技術の乏しさから、写真ではやや分かり難いのが残念ですが、これほど満開に咲き誇っているアルペンローズは初めてでした。本当に圧巻です。
絶景と美しい花々の中を進んだこともあって、疲労感を然程感じることなく、斜面上部まで到着。振り返ると、遥か下に先程通過した山小屋が見えます。
お鉢の底
ルートを遮るように残る雪渓を越え、そろそろ峠かと思いきや…。見晴らしの良いところまで登ると、ルートは遥か先まで続き、目指す峠はどうやら前方に見える山並みで最も低い場所のようです。先へ進んで行くと、昨日同様、ここもお鉢状の地形が拡がり、前方の山には一直線に走る断層が見て取れます。サルドナ地殻変動地帯、何度見ても興味深い光景です。
二段目の峠越え
お鉢の中を進んで行くと、左手に山小屋が見えてきました。ふと反対方向を見れば、何やら動物の集団らしき姿が。急いでカメラを構えて望遠で確認。シャモアの群れで、数十匹規模のかなり大きな集団です。しばらく撮影タイムを楽しんだ後、峠を目指してトレイル再開。
平らな底地を進み、いよいよ最後の急登。峠上部の雪渓から流れ出た小川を渡って、ジグザグ道を登ります。ついに、峠の案内板が目視できる距離まで来ました。本日の最高地点、リヘットリ峠に到着です。
リヘットリ峠
リヘットリ峠からは、これから進むルートと踏破してきたルートの両方がはっきり見えます。特に踏破してきたルートは、実際に見てきた光景やその時感じたことが頭に蘇ってくるので、達成感が一層高まります。もっとも、この時点で既に13時半を過ぎており、ここからリンタールまでは3時間15分とあるので、のんびりは出来ません。撮影を早々に切り上げ、下り始めます。
リンタールへ
峠からの下り
峠から次の目的地ウンターシュテフェル(Unter Stafel、標高1,386m)までは、約900mの高低差を一気に下ります。下り始めようとした時、ある異変に気付きます。ウォーター・パックの飲み口から水が出ません。天気の良さとこれまでの登りで、持参した水を飲み干し、残りは途中の山小屋で補給した予備のボトル1本。ウンターシュテフェルまで下れば補給できるので、慎重ながらも足早に下ります。
急坂を下り、台地の縁まで来ました。その先も、急な下りが続きます。そんな折、進行左手方向の山に注目すると、地殻変動の凄まじい力で捻じ曲がった断層が剥き出しになっています。これも興味深い景色です。
中腹付近まで下ってくると、谷から水の流れる音が聞こえます。水が底をついても、これでどうにか大丈夫、と一安心しながら進んで行くと、丁度水場がありました。これは放牧された牛達の水場と思われますが、浄水器付きのボトルを持参しているので、これで水不足は何とか解消。一休みしてから、下りを再開。
ウンターシュタフェル
眼下に大きな川が見えてきました。川沿いにはウンターシュテフェルがあります。谷を流れる小川を渡り、さらに下って大きな川に架かる橋を渡ります。この川沿いを下流へ下っていけばリンタールです。ウンターシュテフェルを越えた先で、気持ちの良い芝生を発見。少し遅いですが、ここでランチ休憩とします(15時半頃)。
最後の下り
1時間程ゆっくり休息を取り、最後の下りを再開。ここからリンタールまでは700m強を下ります。しばらく進むと、良く整備された水場があったので、新鮮で冷たい水をウォーター・パックに補給。と、その時、目の前をシャモア二頭が勢い良く走り過ぎていくではありませんか。急いでカメラを構えたものの、あっという間に林の中へ。ほんの数メートルの距離でした。シャモアも水を飲みに来たのかもしれません。
ルートはその後林の中へ。木々のお陰で強い日差しから解放されたのはプラスですが、高度が大分下がってきたため、気温も上昇。先程汲んだ冷たい水がとても美味しく感じます。疲労が溜まっていますが、どんどん下っていきます。岩場をくり貫いたトンネルを抜け、さらに下ると人里の気配が感じられてきました。
リンタール
そしてついにリンタールに到着。時刻は18時を回っていました。暑さと水不足に苦しめられましたが、絶景や美しい花々を満喫した、思い出深い一日となりました。忘れずにスタンプボックスを訪れ、リヘットリ峠とリンタールのスタンプをゲット。
アルプスの花特集
最後はこの日見かけた美しい花々です。今回はここまで。
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