【ドイツ/ワイン】ワイングート・ヨアヒム・フリック ー大英帝国ヴィクトリア女王のワイン

ドイツ

高級ドイツワインの名産地ラインガウには、大英帝国ヴィクトリア女王が自らの名前を与えた銘醸畑があります。その畑で収穫されたブドウで醸造されたワインは現在でも英国王室御用達、作り手は「ワイングート・ヨアヒム・フリック」。偉大なワインを生み出す銘醸畑とワイナリーを訪れました。

土地

ワイングート・ヨアヒム・フリックが有するブドウ畑は、ドイツワインの名産地であるライン川沿いのラインガウ地域最西部、フランクフルト近郊を流れるマイン川との合流点付近にあります。この辺りは約3,000万年前にマイン川とライン川がタウヌス山地を削って出来たことから「マイン流域の窪地(マインツの鉢)」と呼ばれ、ムール貝や甲殻類の堆積物とともに石灰質土壌を形成し、そのミネラル感がワインに良い影響を及ぼしています。

地図はVDPウェブサイトより。

ワイナリー

このワイナリーはヴィッカーの町外れシュトラッセンミューレにあります。シュトラッセンミューレは14世紀にエップスタイン伯爵が造成したとされ、約700年の歴史を有する由緒正しい銘醸地です。後にヘッセン方伯が所有したため、門の入口にはヘッセン方伯の紋章であるライオン像が置かれました。強さと勇気の象徴であるライオン像は、現在ワイナリーの象徴となっています。

フリック家は17 世紀半ばからこのヴィッカーという小さな町に拠点を置いてワインを製造しており、現在は9代目の当主が経営。元来小規模なワイナリーとして運営されてきましたが、20 世紀末になり経営方針を転換、現在の規模へと拡大しています。

畑テロワール

ドイツワインでは糖度の高いアイスワインを高級プレミアムワインとして格付けていることが有名ですが、それとは別に辛口ワインの格付制度があるほか、ブドウ畑に対する格付制度もあります。

この格付制度の中で最上位に位置付けられる特級畑をこのワイナリーでは複数所有しています。それが英国ヴィクトリア女王の名前を冠するホッホハイム・ケーニゲン・ヴィクトリアベルクにある「デシャンテンルーエ」とヴィッカー・ノンベルクの「フィアモルゲン」という2つの特急畑(独占所有)、更にホッホハイム・ヘレにある「カンテルボルン」特急畑の一部です。

この他にも、ライン川沿いに約20ヘクタール程保有。栽培品種はラインガウの代表品種であるリースリングとピノノワールが中心ですが、ピノグリ、ピノブラン、シャルドネ、ソーヴィニヨンブラン等の品種も栽培しています。

ヴィクトリア女王の丘(ケーニゲン・ヴィクトリアベルク)

ヴィクトリア女王の丘(ケーニゲン・ヴィクトリアベルク)と呼ばれる丘陵地は、ワイナリーがあるヴィッカーとその隣町ホッホハイムの間に位置します。マイン川下流部となるこの地域では、西暦100年頃にブドウ栽培が始まったとされています。考古学上の確定的な裏付けは無いものの、ブドウ栽培の道具や近くのワインセラーの状況から、ローマ時代から栽培が始まったと考えられています。また、819年ルートヴィヒ敬虔皇帝(カール大帝の息子)がこの畑をフルダ修道院に寄贈したとの記録があります。

1845年大英帝国ヴィクトリア女王と夫のアルバート王子はホッホハイムを訪れ、市の長老達に当時最も素晴らしいブドウ畑へと案内されて、そのワインを楽しみました。そして5年後の1850年、英国王室からそのブドウ畑をヴィクトリア女王の丘(ケーニゲン・ヴィクトリアベルク)と呼ぶ許可を得ました。ヴィクトリアベルクのリースリングは今日でも英国王室が主催する多くの行事に提供されており、エリザベス2世やウィリアム王子ケイト夫妻、そして現在のチャールズ国王もここを訪問。また、ベートーベンや詩人のゲーテもホッホハイムのワインを好んだようです。

ノンベルク

このブドウ畑はワイナリーのすぐ近く、マイン川に向かって傾斜地となっている所です。1281年近くの修道院が別の修道院と土地を交換した、という記録が文書で残っており、当時から既にブドウ畑であったことが分かっています。

1791 年地方裁判所が畑に対する課税額を3,500 ギルダーと決め、財政難に陥っていた修道院ではこの畑を手放し、その後1807年にマインツの商人が買い取り、2003 年以降は現在のワイナリーが所有。この畑の石灰質の土壌は、優れたミネラルと長期保存の可能性を備えた素晴らしいワインを生み出しています。

世界の偉大なワインとして

20世紀初頭、ラインガウの白ワインはボルドーの赤ワインと並ぶ、世界トップクラスの評価を得ていました。ロンドンにある王室御用達のワイン商ベリーブラザーズの1896年プライスリストでは、ラインガウのリースリングワイン(特級畑のヴィンテージ)がボルドーのシャトーラフィットと同程度の値付けがされていました。また、スパークリングワインでもシャンパーニュの特級畑と同等、ピノノワールの赤ワインもブルゴーニュの一級畑と同等でした。これはヴィクトリア女王がラインガウワインを英国に持ち帰った影響が大きかったと考えられます。

尚、ヴィクトリア女王の丘の畑があるホッホハイムという町の名前のドイツ語の発音は英語にはない発音で、英語読みすると「ホックハイム」となり短縮して「ホック」と呼ばれていました。このため、ライン川の良いワインの事をイギリス人は「ホック」と呼ぶようです。ベリーブラザーズのプライスリストにも「ホック」として記載されています。

試飲と販売

ワイナリーでは購入のための試飲が可能で、もちろんその場で購入可。ここには、英国王室からの招待状も飾られていました。またワインだけでなくワインを使ったジャムやゼリー、チョコレートも販売されており、お土産にも最適でした。

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